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するとの仮定に立って外航日本人船員の規模として約二千人を想定するのが適当であるとしている。
海員組合と船上協会側の試算が最も大きく食い違っているが、船主協会の主張は「いくら船員がいても船に国際競争力がなくなれば配乗する船がなくなってしまう」というものであり、海員組合は「日本商船隊の安全かつ効率運航を図るために必要な人数と海運関連職域と合わせるとこれだけ必要」という主張である。
国際競争力強化を前提に「配乗条件の緩和」を期待する船主と「日本人船員減少に歯止めをかける政策」を望む立場の差であるが、必要船員数を足がかりに、これからの外航海運のあり方について本格論議が展開されることが期待される。

 

海運支援策を強化する欧州諸国
一方、SECOJの国際船舶制度推進事業調査委員会は海外調査を行い、先進海運国の海運支援策の新しい動きも探っている。
オランダでは自国の船社の海外流出防止と外国船社の参入を促すため、一月から課税方式の変更や船員雇用関係税制上の減免幅の拡大(一九%から三八%へ)などの措置がとられているが、今国の海外調査の結果、スペインやノルウェーでも支援策の強化が図られていることがわかった。
スペインは、商船隊維持と欧州での競争力維持のため、同国の第二船籍であるカナリア諸島籍について支援措置を来年度予算で要求中である。その内容は?雇用船員の社会保障資の企業負担分の軽減(現行七五%から九〇%へ)?個人所得税の一部免除(現行二五%から五〇%へ)?事業税の課税対象額の軽減(現行三五%九○%へ)というもので、調査に参加した筆者にはカナリア船籍船を欧州の中で競争力のあるものにしたいというスペイン政府の意気込みが強く感じられた。
ノルウェーでは同国の第二船籍制度であるNIS制度について?自国船員の雇用拡大を目的とした船員費助成措置の適用をNIS船全体に拡大する?減価償却率を二〇%から二三%に引き上げる?国家産業・地域開発基金による船舶更新建造への融資などの支援が強化された。

 

中東危機の再来に備える必要がある
欧州調査とは別だが、米国では本年九月、上院で新運航補助法(マリタイム・セキュリティ・アクト)が成立、十月に大統領がこの法案に署名、新運航補助制度(MSP)が実施になった。国家緊急時の徴用が条件で、十年間毎年度一億ドルが四十七隻に支給され、一隻当たり、初年度二百三十万ドル、次年度から二百十万ドルが支給される。
日本の将来を考えるとき、危機のとき外国籍船と外国人船員で安定的な物資輸送ができるか心配である。中東危機のとき日本船は日の丸を甲板にかかげ、ペルシャ湾の奥まで石油を積みに行ったが、独自の外交を展開していた日本の船だからできたことである。
日本籍船と日本人船員がゼロになっていると考えている人はいないだろう。だが、平成九年度の予算・税制改正要求では欧州が実施しているような船員の優遇税制がきびしい財政事情を反映して見送られた。SECOJの委員会の議論を受けて、海造審でもやがて海運政策議論が始まろうが、本当に今度がラストチャンスであり、その鍵は国民の支持である。

 

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